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ORTOBranding, V.I, Interior, Product, Website

店舗リニューアルにまつわるブランディング及び、デジタルメディア&プロダクト、印刷物の制作

ORTO /オルトは京都街中にある四季を体感するレストランです。世界各国のエッセンスを取り入れたコース料理を提供しています。店舗を含め全てを刷新するにあたり、レストランの核となるコンセプト設計から店舗にまつわるデザイン、その他アイデンティティすべての総合的な制作及び監修を行いました。プロジェクトをどのように設計し進めたのかを順を追って紹介します。

ORTO

  • ORTO
    ヘモグロビンとクロロフィルのモチーフを使ったORTOのシンボル
  • ORTO
    装飾と印象の関係性を問うアプローチで原始的に形づくったロゴタイプ
Concept

イメージの再認識から関係性の起源へ

<私たちはいったい何を口にしているのか> テーブルに何気なく置かれた皿を眺めた時、普段口にしているものが多くの食材と加工品で成り立っていることに改めて気づきました。トマトひとつとっても品種改良が重ねられ原種のものとは大きく異なっています。レストランのブランディングを考えるにあたり、高度かつ複雑な過程をもった現代の料理をどう解釈するか以前にまず食とは何なのかというところから始めることにしました。そこで、ORTOでは野菜、ハーブなどの植物性の食材を重要視していることもあり、まず植物について思考を巡らせました。

古来、人は木の葉や果実などの植物性の食生活をしていたそうです。植物は食料であり、生活のための道具や家にもなり、生きていくために必要なものすべてを担う資源でした。科学として人の起源を辿っていくと、有機物からの進化という点を除き、人と植物は全く異なる生物として分かれて進化を遂げてきました。しかし宗教観としては様々な解釈があるようです。
ある本で北米のネイティブアメリカン、オジブワ族についての記述を思い出しました。その種族によると、神ははじめに人を作りましたが人だけでは生きていけないことがわかり、それぞれに木や森に変わるよう命じたといいます。彼らの中で植物と人は元を辿れば同一のものだということになります。同じ起源を持ち、互いに交換をして、同じ場所へ還って行く、究極の共生関係といえるかもしれません。このような共生の形態というのは実は至る所に見つけることができ、今回注目したのは植物と人の中にある分子構造でした。
人は酸素を吸い、二酸化炭素を吐きます。酸素を体中に運ぶのは赤血球のヘモグロビンです。一方植物は二酸化炭素から酸素を合成します。この役割をするのは葉緑素を構成するクロロフィルです。面白いことにヘモグロビンとクロロフィルの分子構造は同じ形をしています。そしてヘモグロビンは赤色、クロロフィルは緑色をしており、赤と緑は色相環で真逆の位置にある補色関係といって対を成す構造です。ORTO(語源では真っ直ぐの意)のシンボルではこれらのモチーフを使うことにしました。種子の発芽をイメージさせ、それらが育ちやがて人の口に入り、血、肉となっていくこと。新しく変わるORTOには最適な形だと思いました。

ORTO

ロゴタイプには原始的な石刻を参照し、ローマン体とサンセリフ体の中間のニュアンスにより組み立てました。人が関わることを意識的に捉え、自然の形態やそのものの特質を理解したうえでそれが引き立つようにする、というのはORTOが料理において大切にしていることでもあり、全体に通じるコンセプトでもあります。

ORTO

ORTO
ORTO1Fカウンター

Concept

ものの表象と、テーマの設立

現代において人は高度に作りあげられた仕組みの中を知ることなく指先だけでそれらを操作できるようになりました。それらの組み合わせで人は自由になり、生命の危険から守られ便利かつ快適に過ごせます。ただブラックボックス化したことで拠り所を失い、不可視なものに振り回されてしまうことも多々あります。ORTOという店をどうビジュアライズするかという点において、これはひとつの重要なポイントでした。食の場を構成するもの(インテリア、メニュー、グラスやカトラリー、イスの座り心地、照明、スタッフなど)が品を備え簡素に調和し、明確であること。そして料理を最大限楽しめる場として機能しながら全体が無理なく豊かな方向へ向かうこと。そのためにはひとつひとつの素材を吟味し選定して、いかに互いが作用するかを慎重に見極める必要がありました。時代に左右されない恒久的なもの、今の時代だからこそ必要なもの、双方のバランスを適切に落とし込むことに注力をして室礼を決めていきました。

Product

テーマの輪郭をなぞり形を具体化する

ORTOの中で象徴的なものを作ろうということになり制作したのが、自然の風化によって様々な形に変化した木材を使った照明です。枯れ、寂びの様相を持つ木が組み合わさることで、吹き抜けの空間を華やかに演出する照明となりました。高度に積み重ねられた工業化の果てで作られた化学素材ではなくこのような木を使うということは、自然の産物が持つ美の可能性を見出すことでもあります。ORTOではただ単に目を引くもので空間を彩るのではなく、店舗の方向性に沿った意匠やプロダクトを配置することで細部から全体を通して一体となった空間づくりが形成されたのではと感じています。

ORTO
ORTO店舗2Fから

ORTO
店舗内照明(シャンデリア)の案

Print

店舗内で実際に使用する紙媒体も制作していきました。テーブルのセッティングには植物を添え、コース内容を記した紙にはいまの季節とその前後の季節を24節気にて表記しています。コース内容そのものも料理名ではなく素材名だけを記すことで、「現在の気候や風土に意識を傾けながら旬のものを口にする」ということを改めて感じる、そのような気づきを促すデザインとしました。

その他の印刷物(メニューやパッケージ、名刺、ショップカードなど)もまた、細かな箇所に全体のブランディングが地続きで浸透するよう統一された構成、文字組のシステムを構築し制作しています。

Digital

デジタル領域では実店舗へのスムーズな来店とORTOの魅力の伝達を目的に、閲覧者を意識した明確なデザインを心がけています。そこに派手な意匠や最新の技術を全面に押し出した面白さはないのかもしれませんが、丁寧で的確に推敲されたテキスト、質実な魅力を備えた写真、整合性のとれた確実なインターフェースが揃うよう努めています。本当に必要な意味を選択し、最小限の差異で意味を組み立てていくことは困難ですが、それができたならばよりデリケートにものごとが伝えられると考えています。手で触れられず、人から離れていくものほど手をかけてやらなければ、人の意図や気配が失われ、だんだん冷たいものになっていってしまいます。㐂日では今後のデジタル領域の進展に可能性を見い出しているからこそ、メディアを慎重に見極め、あり方を常に問うことを重要視しています。

Summary

ORTO(Kyoto)
Branding, V.I, Interior, Product, Website
2016

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