言葉について
言葉はいつもすぐそばにいる最も近しい他者である。
環境が持つコードに沿って精巧な道具のように扱われることもあれば、
無意識に、そして無意味に吐き出されることもある。
言葉は繊細なテクスチャをまとい皮膚のような感覚が備わるがあくまで表層的であり、
指し示すものと絶対的な結びつきがあるわけではない。
だから言葉は不便であり、不十分であるということから始めなければいけない。
言葉と言葉の間には無限のグラデーションがある。
日本では雨を表す言葉が豊富であり、また虹の色数や表現は文化で多様に異なる。
人間の営みのいくつかが世界の解明と拡張にあると仮定すると、
いつしか言語体系で表現しきれない段階へ向かうことになる。
これまで使用していた言葉と、その言葉を超えた高次にある状態。
それを関連付け名づけることでまた言葉が生まれる。
無限に言葉が作られ補完され合う関係性が地図を作る。
この地図は人間が生きる世界そのものを示すが、人間が人間であることの根拠は言語にあり、
その言語の根拠は言語そのものにある。
これは思考が言語に従属してしまう人間の知の本質であり、
分解不可能な表現の基底でもある。
そのような性質をふまえても、すべてが固定されず流れていくこの世の仕組みの中で、
言葉の奇跡的な繋がりがひとときでもシステマティックに機能すると思わせられる感動はある。
それは崩れゆくとわかっている些細なものに、せめてもの形を与えようとする意志の光なのである。